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約20台のグランドピアノが静かに並ぶ『試弾室』。ここがディアパソンのもっとも重要な仕上げである調律・整調・整音が行われる場所です。鍵盤をたたく音が響くこの部屋で黙々とピアノに向き合う職人がいます。
長きにわたりディアパソンピアノ一筋にピアノの調律を行っているのは、ディアパソンピアノ専属の調律師である乗松直さん(73歳)。
乗松さんがディアパソンに出会ったのは十代の頃。「はじめて聴いたときからすばらしくきれいな音だなと思いましたね」。ディアパソンとの出会いをこう語る乗松さんは、“ハンス・カン”のコンサートで初めて耳にしたそのピアノの音に衝撃を受けたといいます。
その瞬間から乗松さんとディアパソンの運命が交差し始めました。少しでもディアパソンに触れていたいと、出身地の大分県の楽器店に就職。「楽器店ですから扱っているのはディアパソンではないですから、いろんなピアノで調律の勉強をしましたね。でも数あるピアノの中でもやっぱりディアパソンが一番好きだったんです」。
楽器店の営業が終了した後の店内で地道に調律の腕を磨き、8年後、念願のディアパソンへ専属調律師として入社することになります。 |
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ディアパソンは、日本におけるピアノ製造の第一人者である大橋幡岩氏が作りだしたピアノです。“納得のいくピアノを作りたい”という一心で、設計からこだわり抜いて完成した国産ピアノがディアパソンピアノ。現在もその思いを受け継ぎ、音を作り出す小さなパーツにこだわり、職人たちの手でひとつひとつ仕上げられていきます。その最終工程である調律で、乗松さんはディアパソンブランドを支える重要な役割を担っています。
「いいピアノっていうのは、バックと弦と駒が全然違います。使えば使うほどそれがよくわかるんです」。
ディアパソンの魅力をそう語る乗松さん。使い込み、年数を経ても音色が変化しないその特長は、音が長持ちする設計にあるといいます。大橋幡岩氏の作った初期の頃のディアパソンピアノの調律を行うこともあるそうですが、その変わらぬ音色に驚かされるそうです。そんな時代に作られた初期のピアノでも変わらずすばらしい音色がする、と乗松さんは誇らしげにほほ笑みます。
「お客様のご自宅へ調律に伺ったときも。やはり昔のピアノなのにたまらなくいい音だなぁと思いますね」。一度手にすると手放す人が少ないというディアパソンピアノ。使えば使うほどにその魅力がわかるディアパソンならではのエピソードです。
乗松さんは調律師歴55年。調律はすべてのピアノにおいて大変重要で、非常に繊細な最終の仕上げです。「弦をたたくハンマーはフェルトなんですが、音の質感を調整するときに針を使います。針を刺す回数はもちろん位置や深さが少しずれただけで音の質が変わってしまうとても繊細な調整なんです」。
音の強さや弱さはもちろん、鍵盤のタッチの感覚の好みも千差万別。ディアパソンでは、新しく出来上がったピアノを納入する前に乗松さん自ら使う人の好みに合わせて調律を行うことがあります。希望があれば試弾室で実際にピアノを弾きながら、乗松さんに調整をお願いすることも可能なのだそうです。
「ディアパソンは基本的に少し手応えのあるタッチにしていますが、重めのタッチが好きな人もいれば軽い方がいいという方もいます。私たちはお客様が感じる好みのとおり仕上げて差し上げるのが大事だと思っています」。
今でも乗松さんにぜひ調律をお願いしたいと、プロの演奏者から直々に指名されることもあるそう。「もちろんディアパソンだけじゃなくていろんなピアノの調律もしますよ。少し前までは全国飛び回ってましたけどね」とにこやかに笑います。
「大きなコンサートの前に呼ばれることもあります。以前、2台を同じピッチ・状態で合わせてほしいというのもありましたね。当日の朝に会場へ入って、リハーサルに間に合わせないといけないから大変ですよ」。調律師は音づくりの職人。音を合わせる正確さはもちろん、時間内にそのピアノとしての最良の状態に仕上げるスピードも求められるのです。そう語る乗松さんはどこか職人としての誇りを滲ませます。 |
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「健康で、可能な限りディアパソンの調律を続けたい。80歳まで続けることが今の目標です」。毎日試弾室で黙々と調律を続ける乗松さんは、その毎日が調律の訓練だといいます。
そんな乗松さんが一番好きなピアノは「やっぱりディアパソンピアノ」。誇らしげに語る乗松さんの笑顔に、ピアノに向かっているときに見せる職人の厳しさはありません。
「音にこだわる」という伝統を守り続けるディアパソンピアノには、誰よりもディアパソンピアノを愛する名工の姿がありました。
(2010/10/13 カワイピアノ竜王工場にて)
取材:アメリカヤ楽器店 取材班 |
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